硝酸性窒素、及び亜硝酸性窒素による地下水汚染


 かって地下水は、水質が良好で比較的に安定していることや、水温の変化が少ないこと、すなわち夏には冷たく冬には暖かくまことに好都合な水であり、県民・市民にとって貴重な生活水源でありました。
 しかしながら、近年本県においても肝臓障害や発ガン性が指摘されている六価クロムや、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有機塩素系化合物を含む化学物質や砒素による地下水汚染が問題化し指摘されて参りました。硝酸性窒素による地下水汚染はこれらの汚染報道の陰に隠れ、マスコミには少しづつ取り上げられているとは言え、余り聞き慣れないものです。
 環境庁は、平成11年2月に環境基本法に基づく、水質汚濁に係わる環境基準と地下水の水質汚濁に係わる環境基準に新たに硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素とフッ素とホウ素の3項目を追加しました。
 ご承知のように、環境基準は人の健康の保護及び生活環境の保全の上で、維持されることが望ましい基準として、大気、水、土壌、騒音などをどの程度に保つことを目標に施策を実施していくのかという目標を定めたものです。
 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素は、要監視項目であった時から全国的に顕著な現れ方をしており、汚染の原因と汚染の範囲の広さ、また硝酸性窒素の性質と地下浸透の量等から、対応の難しい大変やっかいな汚染であると言えます。


(性質と人体への影響)
 元来、窒素は炭素と並んで、もともと土壌には含まれない物質であります。自然状態では、土壌中の窒素は土壌微生物によって窒素固定され、自然林地の地下水中の硝酸性窒素は低く、高くとも5ミリグラムパーリットルを超えることのないものです。ちなちに、我が国の水道法と国際的環境基準は、10ミリグラムパーリットルであります。したがって、5ミリグラムパーリットル以上の高濃度の硝酸性窒素の存在は、人間活動と深く関係してると言え、主な原因として、施肥・化学肥料等を含む一般肥料等の投与、畜産排水や生活排水の土壌浸透処理があげられます。
 硝酸性窒素の人体への影響についてでありますが、硝酸性窒素は、嫌気的な環境すなわち酸素の少ない環境では容易に亜硝酸性窒素に還元され、亜硝酸性窒素は、メトヘモグロビン血症、いわゆるチアノーゼ症状を引き起こし、特に乳幼児のメトヘモグロビン血症と関係が深いとされています。症例としても、硝酸性窒素を多く含んだ水で粉ミルクを溶き生後6ヶ月の乳児に与えメトヘモグロビン血症を起こした例があります。
 また硝酸塩は、人の胃の中でニトロソ化合物と反応して発ガン性のあるニトロソアミンを生成するとの指摘もあります。
 この硝酸性窒素の性質は、無色無臭でありトリクロロエチレンのような有機塩素系のように煮沸すれば、放置しておけば揮発するということもなく、もちろん塩素滅菌などで除去できるものでもありません。さらに、六価クロムのように市販されている中空糸系の浄水器で少しでも減らすことができるというものでもないのであります。すなわち煮沸しても、塩素滅菌しても、通常の浄水器では取り除けないということです。


(外国での状況)
 この汚染の発生経緯を見ますと、この汚染は我が国特有のものではなく、既に1960年代のアメリカイリノイ州の畑の浅井戸で地下水中の硝酸性窒素の濃度が高くなり、やがて水道水源の河川の水中濃度も飲料水の基準を超えました。その原因がこの地域の主要産物であるトウモロコシに対する窒素肥料の増加にあり、このとき水中の硝酸性窒素の60%が化学肥料に由来するものであったとされています。
 また1970年代には、この問題は世界各地で顕在化し、アメリカ、カナダ、東欧を含むヨーロッパ各国、ソビエト現在のロシア、中国などから農地への施肥が地下水中の硝酸性窒素の濃度の上昇原因になっているとの報告がされています。この問題の背景には、農業生産を上げるために世界的に化学肥料の使用が増加したことが考えられます。
 1985年にデンマーク環境保護庁では、1970年代に急増した施肥に伴う硝酸性窒素の濃度のピークは、当時地下10メートルから20メートル付近に差しはかかり、ピークの濃度が100ミリグラムパーリットルを超えることも希ではなく、こうしたピークが今後数十年間に次々地下水に到達し、地下水中の硝酸性窒素の濃度は着実に上昇し続けるだろうとの報告があります。


(我が国での状況)
 我が国では、農業形態の違い、畑地と水田における窒素挙動の違い等のため欧米ほど注意を払われていなかったこともありましたが、1982年に実施した環境庁の地下水汚染実態調査が井戸水1,360検体で行われ、結果最も検出率が高かった物質は硝酸性窒素であり、中でも浅井戸については11%が基準を超えていたことが明らかになったのであります。また、この環境庁の調査は都市地域を中心に実施されたもので、農地の地下水ではさらに高濃度に汚染されているだろうと予想されるとのことであります。


(千葉市の状況)
 千葉市においては、おおよそ1万カ所井戸があるといわれ、千葉市の千葉港にあります。薬剤師会検査センター及び千葉市環境保健研究所への飲用井戸水依頼検査のうちおおよそ検体の10%から13%が基準値を超えており、千葉市若葉区にあります千葉市環境局所管の最終処分場観測井からもこの硝酸性窒素の基準値を超えた報告があります。
また平成11年7月から10月にかけ地下水緊急汚染実態調査では、その結果、花見川区長作町・宇那谷町など4区13町から、総調査数の50.4%あたる208本の井戸から基準超過が確認され、最高濃度は48mg/Lと環境基準の5倍近くの高い濃度でした。さらに、千葉市が平成12年度行っている上水道未給水地区全戸おおよそ4,500世帯の井戸水調査でありますが、9月までの調査件数1,050検体中、約240検体が基準値を超え、中途ではありますが、約24%の検出率とのことであります。さらに今年1月には、同じく花見川区の井戸よりの62mg/lと過去最高の基準超過値が確認され新聞報道にも大きく扱われました。
 この驚きは、古くからこの汚染対応に先進的な努力してきた各務原市で、1974年に水道水源の硝酸性窒素濃度が、27mg/lに達し、当時の市の職員は基準値の「2.7倍という情報に愕然とした」、また当時の平野市長さんをして「青天の霹靂」と言わしめた数値が27mg/lでありました。花見川区の62mg/lがどんなに深刻かがわかります。


(千葉県の状況) 
 本県においても、千葉市を除いた各保健所への飲用井戸水検査依頼の状況は、野田保健所の平成10年までの4年間で、検体数1.706うち硝酸性窒素で不適となった数は530で31.1%占め、この数値を最高に、5年ないし3年間の記録の有する期間内で習志野・船橋・市川・松戸・海匝の保健所で不適率が20%を超えております。
 また平成10年度だけで見ますと、やはり、野田保健所の327検体中108が不適で33%をしめ、県衛生研究所と15保健所の検査を行った総数は、8.014。うち不適数いわゆる基準値を超えたものが1.312で全体で16.4%と高い数値となっております。各保健所への持ち込み検査とはいえ、他の環境基準と比較しても地下水汚染がかなり広がっていると言わざるを得ません。
 平成13年3月付けで千葉県環境生活部より出された「平成12年度地下水における硝酸・亜硝酸性窒素の汚染負荷削減対策調査報告書」の記述中「硝酸性・亜硝酸性窒素汚染の分布をみると、佐原市、印西市、栄町、芝山町、富里町、八街町など北総地区を中心に高濃度汚染地区の分布が広がっており、特に佐原市の一部では60mg/lを超える地区が数ヶ所あり、なかには180mg/lを超えている地区もある。」中略「そのほか、汚染地区は千葉県北西部では市川市、船橋市、松戸市、千葉県東部では銚子市、干潟町、山田町、東金市などにみられる。一部の地区では、90mg/lを超える地区があった。」と報告があります。正に180mg/l、基準値の18倍は驚愕です。
 重ねて言えることは、この汚染源の主なものは、今も日本の各地の農地で蒔き続けられている化学肥料であり、浄化されない畜産排水であります。そして1950年代から地下に浸透し始め、70年代、80年代に比較的浅い井戸より検出されていることから、今後さらに深井戸への汚染の深刻事態が、予想されます。


(汚染への対応と調査・解明)
健康への対応ですが、硝酸性・亜硝酸性窒素よる地下水汚染が、確かに県下各地で発生しており、体系的な詳細調査・原因究明がなされていなくとも、上水道の布設や飲用指導で、県民の健康を保全しなくてならないものであります。
 千葉市の例ですが、市は安全な飲用水の確保のため、本年度予算に3億5,000万円を計上し、おおよそ700世帯を対象に浄水器の9割補助、また啓発パンフレットの作成、加えて従来の地下水汚染対策の上水道配管布設補助にこの汚染を対象に加え、4月より実施しているとのことです。
 特に、上水道の給水の予定のない地域、いわゆる未給水地域の汚染は深刻です。井戸水しか飲用水を確保できない県民が多く存在します。汚染の発生確認時には、責任のある飲用指導を含めた早急の対応が必要であります。
 実態の解明のため、よりきめの細かい調査、たとえば昭和49年に汚染が発見され、その後、硝酸性・亜硝酸窒素の汚染対策に先進的な役割を果たしてきた、岐阜県各務原市の調査は

 ・帯水層構造の解明を含む地下地質構造調査。
 ・汚染物質、汚染源及び汚染の拡散に関する調査。
 ・浅層での硝酸性窒素集積に関する調査。
 ・浅層及び深層での垂直濃度変化に関する調査。
 ・肥料関連成分に関する調査。
 ・地下水の涵養源に関する水理調査。
 ・窒素肥料の施用改善に関する調査。
 ・地下水汚染の将来予測に関するシュミレーション。

等の調査内容でした。
 「平成12年度地下水における硝酸・亜硝酸性窒素の汚染負荷削減対策調査報告書」の内容は、アンケート調査ではありながら、回答された限りあるデータを分析をし、大変な事態であることを表した評価のできる報告書です。汚染分布地域が市町村の調査記録の有無や調査数によって結果が影響されているようですので、調査方法の統一と調査の空白地域の解消と必要調査数の確保、さらには汚染地域の地下地質構造調査・地下水の涵養源に関する水理調査さらに汚染物質・汚染源および汚染拡散に関する調査・浅層及び深層での垂直濃度変化に関する調査が必要です。


(亜酸化窒素への対応)
 今後の新しい問題として、土壌中や表流水中の硝酸性窒素が、微生物の生物反応によって亜酸化窒素という気体を作り出しております。
 亜酸化窒素は地球の温暖化を進め、オゾン層を破壊する有力な物質として、二酸化炭素・メタン・六弗化硫黄とともに「地球温暖化対策に関する法律」で発生を抑制する対象物質とされ、「温室効果の強さを化合物の1分子で比べると亜酸化窒素のほうが二酸化炭素より強く一説には280倍から300倍との指摘があります。また亜酸化窒素の全生成量の1割弱が窒素肥料の由来であるとのも見解もあります。硝酸性窒素の連鎖によって発生する亜酸化窒素 ついても研究の必要があります。